すね毛が生えるまで俺は綺麗だった
小学生の体育の時だ、
休憩中だった。
体育館の演台に女の子と横に並んで座っていた。
バスケクラブだったその女の子は男勝りで、
気さくに話かけてくる子だった。
ガサツなイメージで低学年の時はなんとなく嫌いでいたけど、そんな俺の気を知ってか知らずか、平然と話しかけられた。彼女は短髪のスポーツ少女だ。
その時何を話したかはあまり覚えてない。
だけど、俺の怪我ひとつない足を見ていったのだ。
なんか女の子みたいだよね。
俺が?というと。その子は頷いた。
全然アザとかないしツルツルじゃん、いいな。
その子の足を見るとアザやケガの後があった。
バスケットボールに打ち込んだ跡だ。
こんなのが羨ましいかなと俺は思ったけど、
女の子みたいと言われたのは案外嫌じゃなかった。
その時俺は男があまり好きじゃなかった。
男がというか、大人の男が。
不潔そうだからだ、
おじさんは気持ち悪いしと思っていた。
俺はそうならないかもしれない。
今は汗をかいても体は臭くならないし、
汚らわしくないままで居られる って思っていた。
それから何年も過ぎた。
入院することになった俺は寝たきり状態で2週間ほど自分の体が見れなかった。
少し動けるようになって、体を起こすと自分の体が見えた。脚が見えた。
黒いツブツブが生えてる。
触るとザラザラしていた。
気持ち悪かった。
自分が汚くなったような気がした。
退院した後、お風呂場で毎日剃った。
ザラザラの感触とその見た目は気持ち悪かった。体育の時間、同級生に生えてるそれが気持ち悪かった。
少し遠くで声が聞こえる
「男で、すね毛剃ってるやつキモいってうちのねーちゃんが言ってた」
うるせーな、気持ち悪いんだよ。
すね毛が気持ち悪くない感覚のお前たちが気持ち悪い、と思った。
でも、毛が生えた時にはもうダメだ、
だんだんと汚らわしい存在になって行く。
汗をかけば汗臭いし、ヒゲを剃らなければ不潔に見えるようになっていた。
そんな体が死ぬほど嫌だったな。
今では目が死んでるので、大丈夫なんだけど。
すね毛が生えるまで俺は世界の中でも綺麗な生き物だった。
ムダ毛を剃り落とすような心はもうどこかに行ってしまったけど、大人になるとは汚らわしくなってことなんだという考え方は少しばかりまだ俺の中に残ったままだ。