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思いついたことをオチなく書き出すブログ

初夏の怪談:真夏の侵入者

 

あれは、数年前、私が大学生だった頃の話です。私の住んでいるアパートは広い、安い、

学校にも近いと、良いこと尽くめでした。

 

しかし、その家にはたったひとつだけ欠点があったのです。

 

このアパートの隣にはため池、

そして、緑豊かな神社がありました。

家の前の交通量は少ないですが

道路が細いため、車が来たら壁際に避けなければなりません。

 

夜道。

家の付近を歩いていると、

前から車が。

私はとっさに壁際に体を寄せました。

 

「ピキィ」

 

実際なったかどうかはわかりませんが、

私は脳は確かにその鳴き声のようなものを耳にしました。

 

ふと、壁に目をやると、

あの世にもおぞましい茶色の生物が

はいずりまわっていきました。

私は流行る動悸を抑えその場を一目散に離れました。

 

一安心した私ですが、

一呼吸すると、ある不安が頭をよぎりました。

 

「家の中も危険だ」と。

 

なら、部屋を締め切れば大丈夫だ。

そう思った私はその日から部屋を締め切りエアコンをつける習慣に切り替えました。

 

「部屋の窓は開けないこと」

私はそうやって茶色生物から身を守ることを決めたのでした。

そうして、茶色い生物を外で見ることもなく平和に過ごしていたある日のことです。

 

ある日、早起きをした私は、

外の風を浴びようと少しだけ窓を開けました。

夏とはいえ、早朝の風は涼しく、心地よい風を肌に感じました。

 

 

その日の夜、

学校を終え帰って、部屋に入りました。

部屋はいつものように暑く、

 

さてエアコンでもつけるか。

 

と、リモコンを手にしたその時

カーテンが少し揺れているような気がしました。

「いや…、そんなはずは…」

不安になってエアコンのリモコンを見ましたが、なんの表示もなく。

当然エアコンもオフままでした。

その時、またカーテンが揺れ

顔に生暖かい風を感じました。

 

「あぁ、やってしまった!!」

 

焦った私は、急いでカーテンの方に駆け寄ります。少しだけ隙間の開いた窓。全開ではなかった。全開ではない!希望はある。

そう思って窓を閉めました。

 

ふぅ…と一呼吸起き、

少しだけ肩の力が抜けたその時です。

 

背後から視線を感じました。

反射的に振り返った私に聞き覚えのあるあなた音が…。

 

「ピキィ」

 

天井と壁の隙間から、

その音は確かに私の耳に響いたのでした。

 

恐ろしくなりました。

あぁ…と情けない声をあげました。

 

しかしその声とは裏腹に

私の手はほぼ無意識のうちに殺虫スプレーを手にしていました。

 

「俺がやるんだ」

 

一触触発の空気が流れるなか、

その茶色の生物は微動だにしません。

私は隠れ場を無くすために部屋の床に散らかった物を足で一箇所に集める作業を敵を刺激しないように大きな音を立てずに繰り返しました。

 

そして、戦場が出来上がったその時。

茶色い生物が壁を下って来ました!

それは焦りの時!!

否!武器のある私には攻撃の時です

 

プシューー!!!!!

 

間合いに入った侵入者に私はこれでもか!

というほどにスプレー攻撃を与えました。

 

「やったか!!」

 

私はひっくり返ったやつの姿を確認しました。

 

やったんだ、俺はやったんだ…

 

私は小さく息をつくと、

 

奴をこの世界から抹殺しよう。

地獄の業火で焼き尽くしてみせよう。

そう誓いました。

 

そのためには超えなければならない壁がある…

 

私はティッシュを何重にもし、いまだもぞもぞと動いている奴を捕まえて、小袋に入れてキツく結んだのでした。

そしてその袋をゴミ袋のいれたのです。

 

勝利の2文字が私の頭に浮かんでいました。

いや、平和。

平和が戻った、ただそれだけのこと、されどそれだけのことがこの家にとっては大切なことなのでした。

 

私はそんなことを考えながら

薄汚れた手を洗いに洗面台に向かいました。

 

顔をかがめ、

手を洗います。

洗面台には大きな鏡がついていました。

 

手を十分に洗い終わった私は

ふと、顔をあげました。

 

「ピキィ…ピキィ…」

 

!!!!

 

私はパニックでとっさに1mほど後ろに下がりました。

 

ここでようやく状況を理解しました。

鏡を奴が!歩いて!いる!!

しかもその生物は元気な状態ではなく、

明らかに弱っていました。

 

私の脳裏に、ま、まさかという思いが駆け巡りました。

嫌悪感よりも、真相を追及することを選んだ私はゴミ袋に入れた。

 

『ヤツが入っているはずの袋』を、持ち上げました。

 

「軽い」

 

嘘だろと、何度持ち上げてみても、

 

「軽い」

 

手から伝わる重力は、

明らかに何か入っているものではありませんでした。

 

洗面台の奴は逃げるほどの体力もなく、スプレーの一振りで今度こそ絶命し、丁重に袋に包まれて家から消えました。

 

しかし、私は今でも、ゾッとしてしまうのです。

「どうやって、奴は洗面台に辿り着いたのだろうか」

 

 

 

頭部に何かいるような感覚を感じたら、

一呼吸ついてくださいね。

次の一瞬、あの音があなたにも聞こえてパニックを起こしてしまうかもしれませんから。

 

「ピキィ」と。