ダイソーで感傷に浸るやつ
目的はソーイングセットだった。
リュックが破けたのだ。けどろくに治し方も知らなければ買い換えるお金もない。
接着剤で取り繕うとしたが簡単に取れて白い粉が出てきている始末のお気に入りのリュック。
フレドリックパッカーズ500デイパック。
俺君を救いたい、そしてさらにこき使わせてもらうのだ。
そんなわけでソーイングセットを見つけた、
リュックって縫って治せる物なのか知らないけど初の試みかつ、今最大限に発している、文明の利器。
ソーイングセットを買い終えた俺は、
台所の水道管にフォークが落下していることを思い出す、それから救出しようとしてミイラ取りがミイラになった小さじスプーン。
浅知恵にてガムテープで救出を試みた過去があるが、安物ガムテープで助けることもできず、今も上から水道管を覗き込むとギラリと光るフォークの姿が。
強力マグネットありました。
必ずやこいつでお前たちを助けたい。
そして磁石の横にはクリップが、
ああ、そう言えば最近いろんな資料が家にある。
だいたいこいつらが片付けの邪魔にあるし、
書類を書いたり探したりするので家が荒れる。
なるほど、すごいな100均一は文明の利器達の集合体だ。
可愛いクリップ、よし君を買う。
そしてその頃カゴを手にする。
プリントか、そもそもファイルに入れておくのもありだよな、そうだということでクリアファイルをカゴに入れる。
この時クリップは今日のところはまだしておこうかと判断できないのが100均一という特殊な磁場を持った場所である。
あぁ、そうだスポンジ。
そろそろ汚れたからあいつも買っておこう。
台所用のスポンジは目眩がするほど散りばめられていた、なんだお前達何を買えばいい。抗菌しまくりじゃない。イルカや魚の可愛い形しすぎだ。可愛い顔を縫い付けやがって、これでゴシゴシ磨けるか!!
でも可愛い。結果手にしたスポンジは乾きもいいし見た目も水色のそこそこ清潔そうなやつ。
スポンジの正解がわからんやつには人生の正解もわからない、それでも進んでいくしかないな
泣けるな。
そんでもって台所のことを考えると、長年使ったまな板とそろそろおさらばすべきだと思い立つ、サヨナラするのが人生か。
お前はいつからいてくれていたのかい?
そう言いたくなるくらいあの狭い台所で苦楽を共にした。なんなら昨日だってした、
うちの台所にはまな板を置くスペースすらないのに文句ひとつ言わないやつだった、包丁を使わず料理バサミばかりが活躍している時お前はどんな顔でそれを見ていたのだろう。
久々に使った時お前はなんともないような真っ白な顔をして、トントンと音を立て役割をこなした。でも、玉ねぎを切った時涙が出たのはお前のせいだったのかな。
悲しい、でもサヨナラしないとな。
だが、感傷に浸っているこれ以上なかった
大量消費の社会では莫大な数の人たちがこのダイソーを歩き回っていた、
どいてください。
と、無言でもわかる圧を受けて俺はその場を後にした、サヨナラを告げるための新しいまな板を持って。
その後、トングとハンガーを買った彼らにもまた買われた理由がある。そして俺には買う理由がある。そんな風にして100均一は回転し続けている。
俺はスイートコーン、そしてカルピスソーダクラシックをカゴに入れ、会計を済ませお店を後にした。
お店後にしてからというもの、
「合計で11点になります」
の言葉と
(え?そんなに?)
という心の声が、
帰宅した今も自分の中で反芻されている。